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能登の未来を見据えた「創造的復興」の足がけに ── 金沢21世紀美術館でのトークイベント開催報告
2025.03.06
2025年2月6日(木)、金沢21世紀美術館で開催中の展覧会「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」に関連するトークイベント「時間と場所を紡ぐ、共感のエコロジー」が開催されました。
本イベントには、Rediscover projectの実行委員長である奥山純一も登壇しました。
Rediscover projectは現在、金沢21世紀美術館にて、震災で破損した陶磁器片や規格外として破棄される寸前だった陶磁器と輪島塗の技術を融合させた作品を展示しています。
能登半島地震から1年が経過した今も、その爪痕は色濃く残っています。こうした状況の中、単なる復旧ではなく、より良い未来へとつなげる「創造的復興」が重要視されはじめています。本イベントでも、こうした震災や歴史的出来事とアートがどのように結びつくのか、などについて意見が交わされ、「記憶として残すことの大切さ」について登壇者たちと語り合いました。

トークセッション「創る、つなげる:能登半島地震から」開催報告
モデレーター
藤吉 雅春(Forbes JAPAN 編集長)
パネリスト
ロバート キャンベル(日本文学研究者)
長谷川祐子(金沢21世紀美術館館長)
吉田泰之(「能登の酒を止めるな!」代表)
奥山純一(株式会社CACL / Rediscover project代表)

各者の視点からみた創造的復興
■Forbes JAPAN 編集長 藤吉氏より
藤吉氏は、「日本の国土は地球全体の0.1%に満たない。それにもかかわらず、震度7以上の地震の半数以上が日本で発生している。この国は壊れては創ることをずっと繰り返してきた」と語り、地震と共存する日本ならではの歴史に触れました。自然災害と創造の関係は、単なる破壊と修復にとどまらず、新たな文化の営みへとつながってきたことがわかりました。
■日本文学研究者のロバート・キャンベル氏より
ロバート・キャンベル氏は、「壊れたものが遠くへゆかないように」というキーワードのもと、「壊れたものは産廃になってお金を払って捨てるだけなのか。日本も戦国時代から街が焼かれ焼失し、その度に新たに創造されてきた。ウクライナの教会に飾られる犠牲者の遺影に、遺体収容時に拾われた弾丸や破片が添えられている」と事例を挙げ、「大切なものや人を忘れないために、近くに留めておいたり、育んだりすること。それがまた兆しとなる」と話されました。
■金沢21世紀美術館の長谷川館長より
長谷川館長は、イランの作家モニール・ファーマンファーマイアンがミラーの断片で細工を施した作品を紹介。さらに、彼女から聞いた話として「16世紀、イランの王がベニスから鏡を運ばせた際、輸送中に粉々になってしまった。王は処分を考えたが、宰相が『これは捨てずに、ここから新たな文化を生み出しましょう』と提案した。これが、ミラーモザイクの発祥になった」という逸話を教えてくれました。

また、本展『すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー』についても触れ、環境破壊や気候変動などで失われる自然を前にして、私たちに何ができるのかを問いかけました。批評ではなく、自然との共通点を探し、互いのリズムを合わせながら共生の可能性を模索すること。その象徴として、言葉を使わないダンスのような関係性を築くことがテーマとして込められていると説明してくださいました。
展覧会では実際に、自然と人が共鳴する作品や、壊れたものに新たな価値を見出すアートが多数展示され、来場者がそれぞれの視点で作品と向き合う場となっています。
「クリエイティブな心や文化は、目の前にあるものから生まれるものだと思う」という長谷川館長の言葉が印象的でした。
■「能登の酒を止めるな!」代表 吉田氏より
吉田氏は、震災で被害を受けた能登の酒蔵支援プロジェクト「能登の酒を止めるな!」を紹介。「奥能登にある11の酒蔵のうち9蔵が全壊し、2023年の地震で被害を受けた蔵が2024年の震災で完全に倒壊した。そこから、もろみや生酒の救出を行い、クラウドファンディングを活用しながら酒の流通を守る取り組みを進めている」と紹介。
「お酒もアートも、地域の文化や伝統の中で生まれた作品。災害大国だからこそ、壊れてしまったものの先に、元に戻すだけではない創造が生まれる」と語りました。
■ Rediscover project実行委員長 奥山より
奥山からは、震災で破損した珠洲焼や九谷焼、規格外とされた陶磁器を、輪島塗の技術で融合させ、新たな作品へと昇華させるRediscover projectを紹介。元通りに戻すのではない、新たな表現を追求する”創造的復興”を追求しています。
また、プロジェクト発足の背景に、「震災で避難されてきた輪島塗作家の仕事を絶やしたくなかった」と説明。そして活動の根底には、長年携わってきた障害福祉分野での経験から、「少し違うだけでも規格外となり廃棄されていく陶磁器片と、障害や難病があり働けずに社会から弾かれる人々の社会的構造が重なってみえた」と話しました。

また、陶磁器片には建材としての新たな可能性も秘めていると話し、大理石の端材と九谷焼の破片を用いたテラゾーベンチの制作事例を紹介。陶磁器片が大事にされる社会は、人も大事にされる社会へと繋がると語りました。
最後に、ロバート・キャンベル氏のこの言葉が印象深く残りました。
「目の前にある小さな断片に気づくということが大事である。小さな断片から大きな世界が広がっていく」
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「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」展は、3月16日まで開催

撮影:森田兼次 / 画像提供:金沢 21 世紀美術館
Rediscover projectの作品展示もございますので、ぜひご来場ください。詳細は公式HPをご確認ください。
金沢21世紀美術館HP: https://www.kanazawa21.jp/
CACL Website: https://cacl.jp/
Rediscover project Website: https://rediscoverproject.jp/
展覧会概要
すべ てのものとダンスを踊って―共感のエコロジー
展覧会名:開館20周年記念 すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー
会場:金沢21世紀美術館
会期:2024年11月2日(土)~2025年3月16日(日)
ウェブサイト:https://www.kanazawa21.jp/
料金、休場日等は、HPにてご確認ください